グーグルは既存メディアの直接の敵ではない

百花繚乱のネットメディアだが、既存メディア大手がネット事業で

黒字化を達成した例は、米国も含めて雀の涙。ネットにシフトすれば

いいという問題ではない。年間2兆円以上もの広告収入を得る米グーグ

ルのようなポータルサイトが既存メディアを潰したのかというと、そ

うでもない。

 業種・業界の垣根を越えた顧客の奪い合いを体系的にまとめた書籍

『異業種競争戦略 ビジネスモデルの破壊と創造』の著者で、元ボス

トンコンサルティンググループのシニア・アドバイザー、早稲田大学

ビジネススクールの内田和成教授は、こう指摘する。
『異業種競争戦略 ビジネスモデルの破壊と創造』

 「グーグルは広告で巨万の富を集めているが、テレビ局や新聞社か

らそっくりと広告主と売り上げを奪ったわけではない。むしろ、今ま

で広告を出したくても出せなかった無数の中小企業が主要顧客と言え

る。だから、グーグルは既存メディアの直接の敵ではない」

 「ただし、グーグルは、検索やキーワードに対応した『パーソナル

広告』を開発し、広告の露出だけではなくクリックという行動が伴っ

て初めて課金される仕組みを提供することで、大手の広告主に『費用

対効果が測りにくく、莫大の費用がかかるマス広告に意味はあるのか

』と気づかせてしまった。その意味で、グーグルの存在は大きい」

 グーグルのエリック・シュミットCEOも最近、米ウォールストリート

・ジャーナル紙で「業績不振や規模縮小で不満を抱える新聞社の幹部

は、責める相手を探している。ニュース記事と合わせて表示される広

告の収入は、グーグルの売上高全体からすれば、ごくわずか」とコメ

ントしている。

ルールもプレイヤーも定義も何もかもが変わった広告

 大辞林によると、「広告」とは、「人々に関心を持たせ、購入させ

るために、有料の媒体を用いて商品の宣伝をすること」とある。従来

、テレビや新聞など、より多くの人間を掴んだマスメディアに露出し

た広告が、一番、効率的だとされてきた。だが今では、広告主の企業

でも誰でもネット上に媒体(=メディア)を作ることができる。

 「No more spray and pray」――。米コカ・コーラアトランタ

社のマーケティング部門では、こんな標語が飛び交っているという。

「闇雲に広告を噴霧して、当たるのを祈るのはもうやめよう」という

メッセージだ。自前メディアの育成を目下の主要戦略に据えている。

 素人の大学生が書いたブログの一言が、テレビCMよりも大きな影響

を与えることもある。広告と販売促進の垣根が曖昧になり、大小、手

法が違うさまざまなメディアが生まれ、何が広告に成り得るのかすら

分からない、混沌、混濁とした時代となった。

 大メディアに吹き荒れる経営危機の嵐。その要因は、ネットや携帯

電話の普及によって、広告ビジネスのルールもプレイヤーも定義も何

もかもが変わってしまった、ということに尽きる。

 カオスのメディア、カオスの広告――。グーグルの成功は、新しい

時代の解の1つに過ぎない。メディアビジネス、広告ビジネスを取り巻

く状況は日々、目まぐるしく変化している。

 「広告=企業と消費者とのコミュニケーション」だという原則に立

ち戻り、その奔流の「尖った話」を追いかける。